久々の団欒



とある日の夕暮れ、カイトは部活を終えて自宅の扉を開けた。

カ「ただいま〜と。まあ誰もいねぇけどな」

誰もいない家へ帰宅を伝え、リビングへと入ると・・・

「おう、帰ったか。おかえり」

いないはずの父親がそこにいた。

カ「・・・・OK。状況を整理しろ、今俺は鍵の掛かっていた扉を開けて帰ってきた。
だがそこには今海外のどこかにいるはずの親父がリビングのソファーに座って新聞を読んでいる。・・・・・はぁ!?なんで親父がここにいるし!」

カ父「そんなに驚かなくてもいいだろう?ここは父さんの家だぞ?いてもおかしくないじゃないか」

カ「いつ帰ってきたんだよ!?あと玄関の鍵は!?それに母さんはどうしたんだよ!?」

急に帰ってきた父親に驚きを隠せず大声になってしまう。

カ父「まあ落ち着け。質問についてだが帰ってきたのはつい1時間ほど前。
母さんはシンのところに行ってくると先ほど出たばかりだ。玄関の鍵?父さん達に鍵などあって無いようなものだ」

カイトが慌てているなか父は落ち着き払って質問に答える。

カ「へ?シンのところに行くってすれ違わなかったぞ?」

カ父「当たり前だ。母さんの魔法なら目的の座標さえはっきり分かっていればどこにだって飛べる。実際そうやって帰ってきたしな」

カイトの母親は魔法の実力がありえないレベルで、学園にいた頃は高校1年でS+ランクを取得したという。
さらには学園側でこの人のためだけに裏ランクとしてSSSランクまで作ったとか、学園内の魔法設備は彼女のせいで全部作りかえるはめになったとか、そんな噂話がまことしやかに現在まで語り継がれるほど。

カ「だからって帰ってくるなら連絡ぐらい入れろよ。いつもいつも急にいなくなると思ったら急に帰ってきたり、なんなんだよ、もう・・・」

ため息を吐きながら頭を抱えるカイト。

カ父「世界を回るのはなかなか止められんものだ。未開のダンジョンもいくつかみつけてな。
報告書やらなんやら纏めた後、今回もすぐに現地にとんぼ返りだ」

カイトの両親は世界各地を回って未開のダンジョンなどを調べて冒険者ギルドに報告するというギルドの中でも世界に数人しかいない仕事をしている。だがこの親の場合、仕事というより趣味でやっていると言ったほうがいい。

カ「はぁ、ダンジョンを調べるのはいいけどさ。前みたいに隠し部屋とか全部探索して宝の全回収とかやめとけよ?そのせいでこの前ギルドから苦情の手紙届いてたじゃないか」

未開のダンジョンはギルドに所属している冒険者が見つけた場合、他の冒険者と情報の共有するためにある程度の探索はしてもかまわないが、
未開である以上危険なため原則的にはカイトの父親のようなギルドに認められた冒険者に危険度の調査を依頼しなければならない。
こういった仕事である以上、見つけた宝を優先的に取ってもいいがすべて宝を回収しつくしてしまうのはご法度とされている。
だがカイトの父親のパーティーの場合は宝が見つからないわけがないといった感じでほぼ全部回収して帰ってくることが多い。

カ父「私に見つかるのが悪い」

カ「探索系スキルと近接戦闘スキル、索敵スキルカンストのあんたに見つけられないものなんてあるのかよ」


カ父「あるにはあるさ、魔法で隠された物とかな」

カ「よく言うよ、母さんがその点をカバーしてるくせに」

カ父「ん?それもそうか、ははは!」

カ「相変わらず適当だな・・・。わが親ながらあきれるぜ」

こんなのに未開のダンジョン調べさせてもいいのかギルドの幹部たちよ・・・。なんて思いながらカイトは頭を抱えながらキッチンへと向かいコップに水を入れる。

カ父「ところでミソラちゃんは元気かい?」

カ「はあ?なんでミソラの事なんか聞くんだよ」

カ父「何を言っているんだ?未来の娘の事を聞いて何が悪い」

父親の言葉にカイトは口に含んでいた水を勢いよく噴き出す。

カ「ゲホッ!ゲホッ!」

カ父「おいおい、何やっているんだ」

カ「いきなり何言ってんだ!」

カ父「なんだ、ミソラちゃんがうちに嫁ぐのは決まっているようなものだろ。今更なにを恥ずかしがる必要がある」

カ「な、なにいって!」

カ父「父さん達はお前たちの子どもを早く見たいんだ。いっそのこと一緒の部屋にしても・・・」

カ「少しは黙れこのくそ親父!」

顔を真っ赤にしたカイトが斬りかかるが・・・

カ父「まったくまだまだ甘いな」

父親は指先でキーブレードを受け止めている。

カ「!?」

カ父「まったく、この程度で我を失うとはな。しかしまだまだ遅いな。剣を抜いてから攻撃までもうコンマ1秒縮められればもうちょっと技のキレが挙がるだろうな」

一応言っておくがカイトの剣の速度は現在の幻想学園内では最速である。
本気で剣を振れば一振りにしか見えない攻撃で十数回の斬撃を与えることも出来る速度、その剣を遅いと言いのけ、指先ひとつで受け止める父親の実力は推して測るべし

カ「くっ・・・」

カ父「ま、私もからかいすぎた。剣を納めなさい」

カ「…… ……」

カ父「しかし元気そうで安心した。家にひとりにさせているからな。体調を崩してないかと思っていたぞ」

カ「そうやって心配してくれるならあまりあっちへ行ったり、こっちへ行ったりとふらふらしないでくれよ。仕事以外で家を空けること多すぎだろう」

カ父「お前も世界を回ってみればわかるさ、いつだって世界は新しいことを教えてくれる。その楽しみがあるからこそじっとしてられんのさ」

カ「そんなもんかねぇ」

カイトは首をかしげる。

「そうよ。世界はいつだって違う表情をみせてくれる。私も彼にそう教わったからこそ一緒にいるのよ」

カ「母さん・・・」

後ろを振り向くと母親がそこに立っていた。玄関が開く音がしなかったことを考えると魔法で帰ってきたらしい

カ母「元気そうね。カイト。シンとは仲良くできてはいないみたいだけど」

カ「あいつと仲良くなんかできるか。いくら同じ血を持つ兄弟でもな」

カ父「まったく正反対の考え方で似通った性格と言うのはこんなにも反発するものか」

カ母「シンもまったく同じこと言ってたわ。カイトと仲良くなんてごめんだって」

父親は呆れて、母親は微笑んでいる。

カ父「おお、そうだ。シンはどうだった?あいつも1人暮らしだろ?元気にやってたか?」

カ母「心配いらなかったわ。元々、修行中も1人で生活できるようにしてたみたいだから」

カ父「そうか、そうか。いや息子が二人とも1人でしっかり生活できるようになってくれるとは嬉しい限りだな」

カ「・・・あんたらがほったらかしにしてくれたおかげでな」

カ父「ははは、そう返されたら返事に困るな」

カ「まったく、それで?すぐ帰るといってたけど実際のところ今回はいつまでいるの?」
ふと両親がいつまでいるのか聞いてみるカイト。

カ母「そうね。今回は1週間ぐらいかしら?」

カ父「そうだな。ギルドに報告して正式な依頼書をもらわないといけないからな。手続きが終わるまではこっちにいられるだろう」

カ「じゃあさ、こっちにいる間でいいからさ。剣と魔法、いろいろ教えてよ。まだまだ父さん達から教えて貰うことありそうだしさ」

心なしかカイトの眼が輝いているように見える。口では悪く言っていても親と過ごせる時間はやはり嬉しいものなのだろう。

カ父「そうだな。お前がどこまで強くなったかも知りたいとは思っていた。そうだな、夕飯のあとに少し手合わせしてやろう」

カ母「それじゃあ、今日はしっかり食べておかないとね」

カ「久々に母さんの手料理がたべれるのか。楽しみだな」

その日の夜、カイトの家からは久々に暖かい家族の声が響いていた




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