嵐の前の静けさ 前編



“鍵穴”の真相を聞いた後何事も無く幾日か過ぎた頃、いつものように目が覚めて窓の外をみると

ファ「大雨か・・・。珍しいこともあるもんだ」

バケツをひっくり返したような大雨が降っていた。
紅魔館周辺では雨が降ること自体が珍しいことなのに

ファ「・・・今更だけどなんで紅魔館周辺だけ雨が降らないんだろ?」

少し気にかけながらも部屋から廊下を歩いているとレミリアとばったり出会った。

ファ「おはようございます。今日はお早いですね」

レ「ええ、今日は霊夢のとこに行こうと思って用意していたのだけど・・・  まさかこの雨とはね」

ファ「あ〜、吸血鬼は雨の中を動けない・・・でしたっけ?」

レ「正確には【流水を渡れない】よ。まったく、パチェがまたなにかやらかしたのかしら」

ファ「雨とパチュリー様に何か関係が?」

レミリアのぼやきが気になって問いかけてみるとため息交じりの返答が返ってきた。

レ「関係大有り、紅魔館周辺に雨が降らないように結界を張っているのもパチェだし、逆に非常事態に雨を降らせられるのもパチェだけ」

ファ「非常事態ってフラン様の暴走時ですよね?・・・ということは!!」

もしかしたらフランが今まさに暴走しているのかもしれない。そう思ってすぐに向かおうとすると

レ「安心しなさい。フランは今部屋で雨のせいで不機嫌そうにしてはいるけど暴れてはいないわ」

ファ「あ、はい。それなら安心です。それならパチュリー様に何故こうなっているか聞いてきましょうか?」

レ「別にそんなことどうでもいいわ。それよりファントム、少し私の退屈しのぎに付き合いなさい」

ファ「へ?でも仕事もありますし・・・」

レ「・・・なら当主命令」

ファ「・・・それ・・・反則っス」

また仕事が溜まる・・・、この数日でやっと片付いたばかりなのに・・・。心の中で愚痴りながらレミリアの後についていく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



一方その頃・・・

咲「パチュリー様、現在降っている雨のことでお話が・・・」

パ「え?な、なんのことかしら?べ、別に実験中の事故で結界の効果が逆転して大雨が降るようになったとかそんなことないわよ?」

急に声をかけられて慌てているのかいらない事まで口走ってしまうパチュリー。

咲「私は止める事が出来るのかどうかをお聞きしたかっただけなのですが・・・
 間抜けが見つかったようですね(ニッコリ」

小「パチュリー様・・・。フォローしきれません・・・」

この大雨、実験中の不慮の事故、ただそれだけの話だったという。
・・・この後パチュリーがどうなったかって?世の中には知らなくていい事だってあるんだよ?


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レミリアの部屋まで着いてきてみるとチェス盤を取り出し準備を始めた。

ファ「何をするかと思えばチェスですか」

レ「嫌ならいいのよ?私としては弾幕ごっこの方がいいのだけど・・・」

ファ「・・・チェスでお願いします」

・・・どっちにしろ勝てる気がしないけど。

レ「さて始めましょうか。白は私がもらうわ」

ファ「どうぞ」


・・・対局中・・・

レ「あら?フィアンケットを組むのね。ここはc5でシシリアン・ディフェンスが定跡だと思うのだけど」

ファ「・・・b6に打つだけでその読みですか」



ファ「ここはクイーンサイド・キャスリングで」

レ「そっちでキャスリングね・・・。ならこう返させてもらおうかしら」






ファ「…… ……」

レ「早く打ちなさい。何時まで待たせる気?」

ファ「・・・キング越しのスキュア(串刺し)でクイーン狙いとはえげつない真似を」

レ「ヴラド・ツェペシュの末裔を名乗るのならどこかでこういったことをするのは粋じゃない?」




レ「これでチェックメイト」

ファ「参りました・・・」


結果は惨敗、自分なりに善戦していたと思っていたが手の内で踊らされていたようだ。

レ「呆気ないわね。これじゃつまらないじゃない」

駒を指で回しながら言いのける。

ファ「面目ないです・・・」

レ「チェスで私に勝てる奴なんてそうそういないとはいえもうちょっと頑張りなさい」

ファ「こっちはチェス経験浅いんですから少しぐらい手加減してくれてもいいじゃないですか」

実のところチェスはこっちに来てからやり始めたのでそこまで強くは無い。
ポーカーを始めとしたカードゲームなら自信があるのに・・・。

レ「どんな勝負でも全力が信条の私が手加減なんて考えられるわけが無いわ」

ファ「姉様らしいですね」

レ「でも少しは上達したみたいじゃない。もうちょっとで楽しめる相手になりそうだわ」

ファ「ならもう一度勝負願えますか?強い相手と戦うほうが上達しやすいということで」

レ「それは構わないわよ。もう一度完膚なきまで叩きのめしてあげるわ」



数十分後・・・


レ「チェックメイト」

ファ「あ、しまった・・・」

そこにはズタボロにされた自分の姿があった。

ファ「あの時のクイーンが囮だったなんて・・・。まんまと騙された」

レ「読み間違いはそのまま敗北に繋がる、そのことが身に染みて分かったようね」

ファ「ちくせう・・・。も、もう一度お願いします」

このまま惨敗のままで終われない。せめて一矢報いておきたい。
そういった気持ちで再戦を申し込む。

レ「それはいいけど。少し休憩がてらどうでもいいことでも聞いていいかしら?」

ファ「なんです?」

レ「いえ、ふと思ったのだけど・・・。私達紅魔館の面々をチェスの駒に例えたら何に当てはまるのか?って」

ファ「本当に別にどうでもいいことですね。・・・でもチェスの駒でいうならキングは姉様で決まりでしょう」

キングの駒を持ち上げながらきっぱりと言う。

レ「まあ当然ね。そうなるとフランは?」

ファ「クイーンかと。あまり動かせないクイーンといった感じで」

レ「動くと双方に被害が出かねないといったとこかしら?」

ファ「ご明察です。あ、姉様がキングだと前線まで行ってしまいそうですね(笑)」

レ「ふふ、チェスとしては危険な手ね」

駒をそれっぽく動かしながら話が続いていく。

ファ「そしてそれの前に美鈴隊長のルークと咲夜さんのナイトが出てくると」

ルークとナイトの駒をキングの前に置く。

レ「さしずめパチェはクイーン側のビショップであまり動かないといったところかしら?」

ビショップの駒を横倒しにしながらレミリアが言う。

ファ「こんなところですか?」

レ「あら?貴方やガイ、ミソラはどうするのかしら?」

ファ「そうですね・・・。俺は敵陣をかき回すナイトあたりでガイが守りながらも攻めるルーク、自陣の守りを固めているビショップがミソラといったところで」

ナイトの駒を敵陣へ、ほぼ中央ラインにルークをビショップの駒を自陣付近に配置する」

レ「チェスの駒としても貴方は前に出るのね」

ファ「それが俺なんで」

レ「でもこれだと小悪魔はポーンになってしまうわね」

ファ「プロモーション先はビショップかルークか・・・」

レ「クイーンには成れないかわいそうな駒」

ファ「まあこんな感じですかね」

レ「そうね。なんともバランスの悪い盤ね」

盤上にはチェスとしてはお粗末な配置で駒が並んでいる。

ファ「確かにそうですね。でもそれを纏め上げるのがキングの仕事です」

レ「あら痛いところを突かれたわね。お返しとしてまたチェスでコテンパンにしてあげるわ」

ファ「・・・お手柔らかに」

今日はチェスだけで終わってしまいそうだ・・・。


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時は少し遡って闇の世界。
その一角で禍々しい雰囲気のなかでシンが闇を取り込み力の回復、強化を行っている。

シ「やっと回復できたな。・・・くそが!あの時のドラゴンに力を奪われたうえにご丁寧に浄化さえされなけりゃもっと早く直ったんだ!・・・まあいい、次はあんなことさせねぇ」

シ「そんなことよりそろそろこいつらをあいつにぶつけてみるか?どうせあいつに倒されるだろうがな。ククク」

シンが目を向けた方にはと“キマイラ”と呼ばれたハートレスが何体かがそこにいた。
しかしその1つとして同じ姿のハートレスがいるわけではなかった。

シ「まずはこいつにするか?それともこっちの奴か。まあどうせやられてもいくらでも作れるんだどれでもいいか」

シ「・・・それともチェスの駒を模したハートレスでも作ってみるか?それであいつがいる紅魔館とかに軍隊として送ってみるとか?」

少しの間考えに耽るシン。

シ「そうだな。それが面白そうだ!縦横無尽に駆け回る駒!
そしてキングを倒さないかぎり他の駒は無限に沸き続ける!それを見て驚愕と絶望の表情を見せる人妖ども!
最っ高だ!これこそ最高の喜劇だ!」

狂気に満ちた表情を浮かべ高笑いするシン。

シ「そうと決まれば早速作り出すとしよう!待っていろカイト!お前に絶望をプレゼントしてやろう!」

闇に包まれシンは消えていった・・・。




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